はじめに|BIM/CIMと電子納品は「3D化」だけでは終わらない
建設・土木分野でBIM/CIMの活用が進むなか、重要になっているのが「作成した3次元モデルを、電子納品としてどのように引き渡すか」という問題です。BIM/CIMは、単に図面を立体化する取り組みではありません。形状、属性情報、参照資料、施工履歴、維持管理情報をつなぎ、インフラ資産を長期的に扱うための情報基盤です。
国土交通省は、令和7年3月時点のBIM/CIM関連基準要領等として、BIM/CIM取扱要領、電子納品要領、J-LandXMLなどの関連基準を整理しています。つまり、BIM/CIMは個別企業の便利ツールではなく、公共事業全体のデータ流通を支える標準化のテーマになっています。
ただし、現場で実際に課題になるのは「3次元モデルを作れるか」ではなく、「後工程で読める形になっているか」「維持管理で使える粒度になっているか」「どれが正しい最新版かを判別できるか」です。ここを設計しないままBIM/CIMを導入すると、見た目は高度でも、電子納品後に活用しづらいデータになってしまいます。
BIM/CIMと電子納品の違いを整理する
BIM/CIMは、建設生産・管理プロセスで3次元モデルを活用する考え方です。一方、電子納品は、成果品を一定のルールに沿って発注者へ納める仕組みです。
この2つを接続するには、単にモデルファイルをフォルダに入れるだけでは不十分です。電子納品では、後から第三者が確認できること、別のシステムでも読み取れること、維持管理段階で検索・照合できることが求められます。
たとえば、橋梁の3次元モデルがあったとしても、橋脚、床版、支承、ボルトなどが意味のある単位で分類されていなければ、補修時に必要な情報を取り出しにくくなります。3D形状は見えていても、維持管理のための「情報」としては不十分なのです。
データ標準化で最初に見るべきはオブジェクト分類
BIM/CIMモデルを電子納品につなげるうえで、まず重要になるのがオブジェクトの階層化です。構造物全体、構造体、構成要素、部材といった単位でモデルを整理し、それぞれに必要な属性情報を付ける考え方です。
この階層が整理されていると、たとえば「どの橋脚にひび割れがあるか」「どの部材にどの材料が使われたか」「どの施工写真と紐づくか」を後から追跡しやすくなります。反対に、モデル全体が一つの大きな塊として作られていると、見た目は立派でも、検索や点検には使いづらくなります。
実務上は、すべての部材を過度に細かくモデリングすればよいわけではありません。発注者が明確にした活用目的に基づき、必要な範囲と精度で3次元モデルを作成・活用することが示されています。活用目的以外の箇所まで作り込まないという考え方は、過剰な作業負担を避けるうえでも重要です。
属性情報とIDが維持管理のカギになる
BIM/CIMモデルを維持管理に活かすには、形状だけでなく属性情報が必要です。属性情報とは、部材名、材料、規格、寸法、施工情報、点検履歴など、対象物に紐づく情報です。
ここで重要になるのが、一意に識別できるIDです。IDが適切に付与されていれば、3次元モデル上の部材と、外部の試験成績書、材料証明書、施工写真、点検記録などを結び付けられます。これは、将来的な補修計画や更新判断に直結します。
一方で、属性情報の入力ルールが曖昧だと、同じ意味の情報が別表記で登録される恐れがあります。たとえば、全角・半角の揺れ、機種依存文字、表記ゆれがあると、検索やAIによる分析で同一情報として扱えない可能性があります。BIM/CIMの標準化では、こうした地味な入力ルールこそ重要です。
LODは「細かければよい」ではなく目的で決める
BIM/CIMでは、モデルの詳細度を示す考え方としてLODが使われます。LODは、モデルをどの程度まで具体的に作り込むかを示す目安です。
ただし、LODは高ければ高いほどよい、というものではありません。住民説明や関係者協議で全体像を共有したい場合と、鉄筋干渉や支承部の取り合いを確認したい場合では、必要な詳細度が異なります。
詳細度を上げすぎると、作成コストが増え、修正負担も大きくなります。反対に、詳細度が不足すると、干渉確認や数量算出、維持管理で使えません。したがって、BIM/CIM導入では「何のために使うモデルか」を先に決めることが欠かせません。
ファイル形式とフォルダ構成の標準化が必要になる
BIM/CIMと電子納品を接続する際には、ファイル形式の問題も避けられません。設計ソフトごとのネイティブ形式だけに依存すると、将来そのソフトが使えなくなった場合や、別組織がデータを引き継ぐ場合に問題が生じます。
そのため、J-LandXMLやIFCなど、交換可能な標準形式をどう使うかが重要になります。国土交通省の関連基準でも、LandXML1.2に準じた3次元設計データ交換標準が位置づけられており、令和7年5月版のJ-LandXMLも掲載されています。
また、電子納品ではフォルダ構成も重要です。モデル本体、統合モデル、地形、地質、線形、構造物、点群、参照資料、画像などを整理して納品しなければ、後から必要なファイルを探すことが難しくなります。
つまり、BIM/CIMの電子納品では「よいモデルを作ること」と同じくらい、「誰が見ても迷わない保管構造を作ること」が重要です。
正しい最新版を管理するワークフローが不可欠
BIM/CIMでは、設計途中のモデル、協議中のモデル、承認済みのモデルが混在しやすくなります。ここで版管理が曖昧になると、古いモデルをもとに協議したり、未承認のモデルが納品対象になったりするリスクがあります。
そのため、作業中、共有中、確定済みといった状態を分ける情報管理が必要です。これは単なるフォルダ整理ではなく、責任範囲と承認プロセスを明確にするガバナンスの問題です。
特に、発注者、設計者、施工者、維持管理者が関わる公共インフラでは、誰が、いつ、どのモデルを確認し、どの版を正式成果品とするのかを明確にしなければなりません。BIM/CIMの標準化は、技術課題であると同時に、業務フローの再設計でもあります。
2次元図面との併用期間に起こる課題
現在の実務では、3次元モデルだけですべてが完結するわけではありません。2次元図面と3次元モデルが併用される場面が多くあります。
国土交通省の資料でも、3次元モデルが工事契約図書に位置づけられていない場合、責任の所在が曖昧になったり、3次元モデルを活用しても2次元図面の修正が必要になったりする非効率が指摘されています。令和7年度からは、3次元モデルを工事契約図書として活用するための試行工事も進められています。
この移行期には、「2Dが正か、3Dが正か」という問題が必ず発生します。したがって、当面は2次元図面と3次元モデルの役割分担を明確にし、整合確認のルールを設ける必要があります。
対外説明・関係者協議ではBIM/CIMの効果が出やすい
BIM/CIMの効果がわかりやすく出る領域の一つが、対外説明や関係者協議です。3次元モデルを使うことで、完成イメージ、施工手順、干渉箇所、周辺環境との関係を視覚的に説明しやすくなります。
国土交通省の資料でも、3次元モデルの活用により関係者間のコミュニケーションが促進され、技術的検討に要する時間の短縮や手戻り軽減につながる可能性が示されています。
特に、道路、鉄道、地下埋設物、橋梁、トンネルのように、多くの関係者が関わる事業では、2次元図面だけでは立体的な干渉リスクを共有しにくい場面があります。BIM/CIMは、そうした認識のズレを減らす手段として有効です。
維持管理フェーズに向けたデータの絞り込みが重要
BIM/CIMの最終的な価値は、設計・施工段階だけでなく、維持管理段階で発揮されます。しかし、維持管理で使わない情報まで過剰に納品しても、管理コストが増えるだけです。
大切なのは、維持管理に必要な情報を再定義することです。点検時に必要な部材単位、補修履歴と紐づけるID、検索しやすい属性項目、将来の更新判断に必要な資料を整理し、不要な情報は削ぎ落とす必要があります。
つまり、BIM/CIMと電子納品の標準化は「情報を増やす作業」ではありません。むしろ、将来使える情報に絞り込み、長く読める形で残す作業です。

まとめ|BIM/CIM電子納品の本質はデータを将来に渡すこと
BIM/CIMと電子納品を接続するうえで重要なのは、3次元モデルの見た目ではありません。オブジェクト分類、属性情報、ID、LOD、ファイル形式、フォルダ構成、版管理、維持管理データ要件を一体で設計することです。
現場では、ソフトウェアの制約、2次元図面との併用、過剰モデリングの負担、発注者と受注者の責任分界など、多くの課題が残っています。しかし、これらを整理せずにBIM/CIMを進めると、電子納品後に使えないデータが増えてしまいます。
これからのBIM/CIM活用では、「作るための3D」から「引き継ぐためのデータ」へ発想を変えることが求められます。電子納品はゴールではなく、維持管理フェーズへ情報を受け渡す入口です。だからこそ、データ標準化はBIM/CIM導入の中心テーマとして扱う必要があります。
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