中小製造業のDXは「外注か内製化か」の二択ではない
中小製造業でDXを進めようとすると、必ずと言ってよいほど出てくるのが「システムを自社で作るべきか、それとも外部企業に任せるべきか」という問題です。
現場を最もよく理解しているのは自社の社員です。一方で、システム開発、セキュリティ、データ連携、保守運用まで社内だけで対応するには、人材も時間も不足しがちです。
そのため、「将来的にはすべて内製化したい」「外部ベンダーに任せた方が安全だ」と単純に判断すると、かえってDXが停滞する可能性があります。
重要なのは、内製化と外注を対立する選択肢として考えるのではなく、
「どこまで自社で持ち、どこから外部の専門家を使うか」
を業務単位で設計することです。
今回の研究報告でも、完全内製化ではなく、企業自身が主導権を持ちながら外部専門家を活用する「部分内製化」「ハイブリッド型」の重要性が示されています。
なぜ中小製造業のDXは内製化でつまずきやすいのか
製造業では、生産計画、在庫、受発注、品質管理、設備管理、原価管理、顧客管理など、さまざまな情報が存在します。
しかし実際には、Excel、紙、メール、既存の基幹システム、個別に導入したクラウドサービスなどに情報が分散している企業も少なくありません。
DXを進めるために新しいシステムを導入しても、業務そのものが整理されていなければ、システムが新たな「情報の島」になる可能性があります。
研究報告では、内製化プロジェクトの失敗要因として、9つの典型的なパターンを整理しています。
代表的なのは、
- 現場とのコミュニケーション不足
- 将来の業務変更に対応できない柔軟性の欠如
- DXそのものが目的になってしまう目的の忘却
- 古いシステムや技術への依存
- 担当者のスキルと業務難易度のミスマッチ
- 特定ベンダーへの過度な依存
- 担当者しか分からないブラックボックス化
- 経営層の理解や支援不足
- 運用・保守体制の不足
といった問題です。研究報告の3〜4ページでは、これらが技術そのものよりも、組織、目的、人材、運用の問題として整理されています。
つまり、システム内製化の成否を決めるのは「プログラムを書ける社員がいるか」だけではありません。
内製化すべき業務と外部支援を使う業務を分ける
では、具体的に何を内製化し、何を外部に任せればよいのでしょうか。
一つの基準は、業務の複雑性と失敗した場合の影響度です。
内製化しやすい業務
比較的内製化しやすいのは、現場担当者が業務内容を理解しており、変更や改善を繰り返しながら運用できる領域です。
たとえば、
- 日報や作業報告
- 点検記録
- 備品・工具管理
- 簡単な在庫管理
- 社内申請
- 問い合わせ管理
- 作業進捗の共有
- Excelで管理している小規模業務
などが考えられます。
このような領域では、ノーコード・ローコードツールを利用することで、現場担当者自身が改善を繰り返せる可能性があります。
外部伴走支援を活用した方がよい業務
反対に、企業全体へ影響するシステムや高度な専門知識を必要とする領域は、外部専門家を活用する方が現実的です。
代表的なのは、
- 基幹システム
- 複数システム間のデータ連携
- 高度な権限管理
- セキュリティ設計
- 大量データを扱うシステム
- 高い可用性を求められるシステム
- 法制度への対応が必要な領域
です。
研究報告でも、定型的で小規模な業務改善は内製化と相性がよく、企業全体へ影響する複雑なシステムについては外部専門家を活用するという整理が示されています。
「部分内製化」が中小製造業には現実的
中小製造業で目指すべきなのは、すべてのシステムを自社社員だけで開発することではありません。
むしろ重要なのは、
「自社が業務と要件を理解し、改善の主導権を持つこと」
です。
たとえば自社側が、
「この作業に時間がかかっている」
「このExcelへの二重入力をなくしたい」
「この情報を現場と営業で共有したい」
といった課題を明確にし、簡単な仕組みは自社で作る。
一方で、システム連携やセキュリティなど難易度の高い部分については外部専門家に依頼する。
この組み合わせが「部分内製化」です。
外部企業へ丸投げする場合と違い、システムの目的や業務知識が社内に残るため、将来的な改善も続けやすくなります。
外部伴走支援は「システムを作ってもらうこと」ではない
ここで重要になるのが、外部伴走支援の考え方です。
従来型のシステム導入では、
企業が要望を伝える
↓
ベンダーが開発する
↓
完成したシステムを納品する
という構造が一般的でした。
しかし、この方式だけでは社内に知識が蓄積されにくく、修正するたびに外部企業へ依頼する状態になりやすくなります。
研究報告では、外部伴走支援を単なる開発委託ではなく、企業自身がDXを進められる能力を構築するための支援として位置付けています。
つまり「代わりに作る」のではなく、
一緒に考え、自社で判断できる状態を作る。
これが伴走支援の本来の役割です。
「教える支援」から「自走できる支援」へ
外部支援の目的も変える必要があります。
操作方法を教えるだけでは、支援が終わった瞬間にDXが止まってしまう可能性があります。
重要なのは、社員自身が、
- 業務課題を発見する
- 改善方法を考える
- 小さく試す
- 結果を確認する
- 改善する
というサイクルを回せるようになることです。
研究報告では、この考え方を「Teaching」中心から「Coaching」へ移行するものとして整理しています。
外部専門家が答えを与え続けるのではなく、社員が自分で考えられる状態を作ることが、最終的な内製化につながります。
ノーコード・ローコードは「内製化の入口」になる
中小製造業の内製化を現実的にした大きな要因の一つが、ノーコード・ローコードツールの普及です。
研究報告では、kintoneやPleasanterなどのプラットフォームを例に、現場担当者が業務アプリを作成・改善する可能性について検討しています。
こうしたツールの利点は、プログラミングそのものを目的にせず、
「現在の業務をどうデジタル化するか」
に集中しやすい点にあります。
ただし、ノーコードだから簡単とは限りません。
アプリが増えすぎれば、データの重複や権限管理の複雑化、担当者依存といった新しい問題が発生します。
そのため、ノーコード導入でも最低限、
「誰が作るのか」
「誰が管理するのか」
「どこまで自由に作ってよいのか」
というルールが必要です。
内製化は3段階で進める
研究報告では、いきなり重要システムを内製化するのではなく、段階的に能力を高める考え方が示されています。
第1段階:簡単な業務をデジタル化する
まずは紙やExcelで管理している業務から始めます。
日報、点検、在庫、申請など、失敗しても事業への影響が比較的小さい業務が適しています。
この段階では「自分たちでも改善できる」という経験を作ることが重要です。
第2段階:部門業務を改善する
次に、複数の社員が利用する業務アプリやワークフローへ対象を広げます。
ここではデータ共有や権限管理なども必要になるため、外部専門家の支援を受けながら進める方法が有効です。
第3段階:重要システムへ接続する
最終的には、生産、販売、在庫、顧客情報など企業の重要データとの連携を検討します。
この段階では、自社だけで無理に開発するのではなく、高度な部分を外部専門家へ任せるハイブリッド型が現実的です。
内製化のゴールは「プログラマーを増やすこと」ではない
DX内製化という言葉から、社員にプログラミングを習得させなければならないと考える企業もあります。
しかし、中小製造業で本当に必要なのは、全社員をエンジニアにすることではありません。
重要なのは、
現場の課題をデジタルで解決できる人材を増やすことです。
必要なのは高度な開発能力よりも、
業務を理解する力、問題を整理する力、外部専門家へ説明する力、改善を継続する力です。
研究報告でも、内製化推進担当者には、部門全体を見る視点、コミュニケーション能力、継続的に運用する力などが重要であると整理されています。
外部パートナー選びもDX能力の一部になる
内製化を進めても、外部専門家が不要になるわけではありません。
むしろ自社のDX能力が高まるほど、
「何を自社で行い、何を専門家に任せるべきか」
を適切に判断できるようになります。
したがって、外部パートナーを選ぶ際にも、単に開発価格だけを見るのではなく、
自社への知識移転を行ってくれるか、業務を理解しようとしてくれるか、将来的な自走を支援してくれるか、といった視点が重要になります。
企業を依存させるパートナーではなく、企業自身のDX能力を高めてくれるパートナーを選ぶ必要があります。
JAICが考える中小製造業DXの分岐点
中小製造業にとって重要なのは、「外注か内製化か」を最初に決めることではありません。
まず業務を整理し、
自社で判断できる領域と専門家が必要な領域を見極めること
が先です。
現場改善レベルの小さなシステムは内製化する。
複雑なシステムは外部専門家と共同で構築する。
高度な専門領域は専門企業へ任せる。
そして、その判断能力そのものを社内に蓄積していく。
これこそが、中小製造業における現実的なDX内製化ではないでしょうか。
内製化の本質は「全部自分で作ること」ではなく、
自社の業務改善を自社でコントロールできる状態を作ることです。

まとめ
中小製造業のシステム内製化では、完全内製化と完全外注のどちらかを選ぶ必要はありません。
業務の重要度、複雑性、必要な専門性に応じて、自社と外部専門家の役割を分けることが重要です。
特にノーコード・ローコードツールの普及によって、現場主導で改善できる領域は大きく広がっています。
一方、基幹システム、セキュリティ、データ連携などは、専門家の支援が必要なケースも多くあります。
これからの中小製造業DXで求められるのは、「システムを自社で作れる会社」だけではありません。
自社で課題を発見し、必要な技術と外部支援を選択し、継続的に改善できる会社です。
外部伴走支援を活用しながら、少しずつ社内にDX能力を残していくことが、持続可能なシステム内製化への現実的な道筋になります。
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