JAICではこのたび、地方自治体に向けて、人事評価・人材情報の可視化に関する提案を行いました。
人事評価は、職員を評価するためだけの仕組みではありません。
本来は、職員一人ひとりの経験、強み、適性、育成課題を把握し、配置、研修、人材育成、組織づくりに活かすための重要な情報基盤です。
一方で、実際の自治体業務では、人事評価情報、面談記録、研修履歴、業務経験などが個別の資料やExcelに分散していることがあります。
そのため、職員の特徴や組織全体の人材バランスを横断的に把握しにくいという課題が生じやすくなります。
今回JAICでは、こうした課題に対し、AI・AXの視点から、人事評価・人材情報を整理し、可視化するための補助ツール案を提案しました。
人事評価を「管理」ではなく「人材活用」の仕組みへ
人事評価という言葉には、どうしても「査定」や「管理」という印象がつきまといます。
しかし、自治体における人事評価は、本来、職員を一方的に評価するためだけのものではありません。
職員の経験や能力、得意分野、成長の方向性を把握し、適切な配置や育成につなげるための大切な情報です。
たとえば、ある職員がこれまでどの部署で経験を積んできたのか、どのような研修を受けてきたのか、面談でどのような希望や課題を話しているのか。
こうした情報が整理されていれば、異動、研修、プロジェクトへの配置、管理職候補の育成などを考える際の判断材料になります。
JAICでは、人事評価を「管理するための仕組み」としてではなく、「職員の力を活かすための仕組み」として捉え直すことを提案しました。
人材情報が分散していると、判断材料が見えにくくなる
自治体では、職員に関する情報が複数の場所に分かれて管理されていることがあります。
たとえば、評価結果は人事評価シートに、面談記録は別ファイルに、研修履歴は研修担当の資料に、業務経験は各課の記録や職員本人の記憶に残っている、といった状態です。
このように情報が分散していると、次のような課題が起こりやすくなります。
- 職員ごとの経験や強みを一覧で把握しにくい
- 育成方針を立てる際の判断材料が不足しやすい
- 配置や異動の検討に時間がかかる
- 研修履歴や業務経験が十分に活用されにくい
- 管理職や人事担当者の経験に判断が依存しやすい
- 組織全体の人材バランスが見えにくい
人事評価や人材情報は、単に保存しておくだけでは十分に活用できません。
必要な情報を整理し、関係者が適切に確認できる形にすることで、はじめて人材育成や組織運営に活かしやすくなります。
AIは評価者ではなく、情報を整理する補助役
今回の提案で特に重視したのは、AIに人事評価を決めさせないことです。
AIは、職員を評価する存在ではありません。
また、職員の能力や適性を一方的に判断するものでもありません。
AIに期待する役割は、あくまで情報整理の補助です。
たとえば、評価コメントや面談記録、研修履歴、業務経験などをもとに、次のような整理を行うことが考えられます。
- 評価コメントから強みや課題を整理する
- 面談記録の要点をまとめる
- 育成ポイントを抽出する
- 業務経験を分類する
- 研修履歴と今後の育成方針を結びつける
- 配置や研修計画を考えるための参考資料を作成する
これらは、人事担当者や管理職が判断するための材料を見やすくする取り組みです。
AIが出力した内容は、あくまで参考情報として扱い、最終的な判断は人が行う必要があります。
この前提を明確にしておくことが、人事領域でAIを活用するうえで非常に重要です。
職員ごとの強みや育成ポイントを見える化する
人材情報は、文章だけで管理していると全体像を把握しにくくなります。
そこでJAICでは、職員ごとの特徴や成長課題を見える化する方法として、レーダーチャートやプロフィール表示などの活用も提案しました。
たとえば、次のような項目を整理することで、職員の傾向を把握しやすくなります。
- 企画力
- 調整力
- 実行力
- 住民対応力
- デジタル活用力
- 資料作成力
- マネジメント力
- 専門性
ただし、こうした可視化は、職員同士を単純に比較するためのものではありません。
また、ランキング化するためのものでもありません。
目的は、職員一人ひとりの特徴を把握し、どのような業務で力を発揮しやすいか、どのような研修や経験が今後必要かを考えるための参考にすることです。
可視化は、評価を固定するためではなく、育成や配置を前向きに考えるために活用する必要があります。
組織全体の人材バランスを把握する
人材情報の可視化は、職員個人だけでなく、組織全体を見るうえでも役立ちます。
たとえば、どの部署にどのような経験を持つ職員が多いのか、デジタル活用に強い職員がどこにいるのか、マネジメント経験のある職員がどの程度いるのかを把握できれば、組織運営の判断材料になります。
また、将来的な人材育成を考えるうえでも、現在の人材バランスを知ることは重要です。
特定の業務経験を持つ職員が一部に偏っている場合や、今後必要となるスキルを持つ職員が不足している場合には、研修や配置、採用方針を見直すきっかけになります。
JAICでは、人材情報を個人単位で整理するだけでなく、組織全体の人材バランスを把握する視点も重視しました。
個人情報保護と公平性への配慮
人事評価や人材情報には、職員にとって非常に重要な個人情報が含まれます。
そのため、AIやデジタルツールを活用する場合には、利便性だけでなく、個人情報保護と公平性への配慮が欠かせません。
JAICでは、次のような項目を事前に整理することを提案しました。
- 情報の保存場所
- 外部送信の有無
- アクセス権限
- ログ管理
- 匿名化の必要性
- 出力資料の取り扱い
- 更新・修正の権限
- 利用目的の明確化
また、AIの出力をそのまま評価結果として扱わないことも重要です。
過去の評価に引きずられすぎないこと、主観的な表現をそのまま使わないこと、本人に説明できない形で判断しないこと。
こうした公平性への配慮がなければ、人事領域でのAI活用は信頼を損なう可能性があります。
AIは便利な整理補助ですが、評価や処遇を決める責任を任せるものではありません。
既存データを活かし、小さく試す
人事評価・人材情報の可視化は、最初から大規模なシステム導入を前提にする必要はありません。
まずは、既存のExcelやCSVデータを活用し、限定的な範囲で試してみることが現実的です。
JAICでは、次のような段階的な進め方を提案しました。
- 現在の人事評価項目を確認する
- 職員情報や研修履歴の保存状況を整理する
- AIに使わせてよい情報と使わせてはいけない情報を分ける
- ダミーデータで画面や出力イメージを確認する
- 限定データでPoCを行う
- 運用ルールを整える
- 現場の意見をもとに改善する
小さく試すことで、現場の負担を抑えながら、実務に合った仕組みを検討できます。
また、いきなり全職員の情報を扱うのではなく、まずは個人情報を含まないダミーデータで検証することも重要です。
安全性や運用上の課題を確認したうえで、段階的に実務活用を検討する流れが望ましいといえます。
人材情報の可視化は、自治体AXの重要テーマ
自治体AXは、単に業務を効率化するための取り組みではありません。
組織のあり方や働き方を見直し、職員が力を発揮しやすい環境をつくることも重要なテーマです。
人事評価・人材情報の可視化は、その一つの入り口になります。
職員の経験や強みを見える化し、育成や配置に活かすことができれば、組織全体の力を高めることにつながります。
また、業務の属人化を防ぎ、将来的な人材育成計画を考えるうえでも有効です。
JAICでは、人事評価を単なる管理業務としてではなく、自治体の人材を活かすための情報基盤として捉え、AI・AXの視点から改善の可能性を提案しました。
まとめ
JAICでは、地方自治体に向けて、人事評価・人材情報の可視化に関する提案を行いました。
人事評価は、職員を管理するためだけのものではありません。
職員の経験、強み、適性、育成課題を把握し、配置、研修、人材育成、組織づくりに活かすための重要な情報基盤です。
AIを評価者にするのではなく、情報を整理し、判断材料を見やすくする補助役として活用することで、人事担当者や管理職の判断を支援できます。
今後もJAICでは、地方自治体の実務に即した形で、AI・AX、業務改善、人材育成、情報管理に関する提案を行ってまいります。