看板製作業のDX・生成AI活用に向けた専門家派遣支援を行いました

はじめに

日本AIイノベーションセンターでは、AIの社会実装と人材育成を軸に、企業や地域事業者の課題解決に向けた支援を行っています。今回は、看板製作業を営む事業者を対象に、業務効率化と売上回復に向けたDX・生成AI活用・デジタルマーケティングの支援を行いました。

看板製作業では、デザイン、現場確認、見積作成、施工管理、請求業務、顧客対応、営業活動など、多岐にわたる業務が発生します。特に小規模事業者の場合、これらの業務が代表者や一部の担当者に集中しやすく、日々の業務に追われることで営業活動や情報発信に十分な時間を確保しにくいという課題があります。

今回の支援では、大規模なシステム導入を前提とするのではなく、現場で使いやすく、代表者一人でも運用できる小規模DXを重視しました。専門家派遣における指導内容案でも、見積作成、請求事務、案件管理、現場写真・デザインデータの共有、顧客対応、営業活動をデジタル化し、制作・施工・営業に集中できる体制づくりがテーマとして整理されています。

支援の背景

対象となる事業者では、看板デザインの作成、現場確認、採寸、写真撮影、施工管理、見積作成、請求書発行、顧客・取引先とのやり取り、デザインデータや施工写真の管理、新規営業や既存顧客フォローなど、幅広い業務を代表者が担っている状況がありました。

こうした状況では、ひとつひとつの作業は小さく見えても、積み重なることで大きな負担になります。たとえば、見積を作るために過去の案件を探す、現場写真を確認する、デザインデータを探す、請求書を作成する、顧客への返信文を考える、といった作業が毎回発生します。

売上が減少傾向にある中で、事務作業に時間を取られ続けると、本来注力すべき営業活動や制作業務に十分な時間を割くことが難しくなります。そのため、今回の支援では「どの業務を減らすか」「どの時間を営業・制作に戻すか」を明確にすることから始めました。

業務フローの可視化とDX導入範囲の整理

最初に行ったのは、現在の業務フローの整理です。

問い合わせ対応、現場確認、見積作成、デザイン確認、請求処理、顧客管理、営業活動といった業務を洗い出し、それぞれの課題と改善の方向性を整理しました。

たとえば、問い合わせ対応では、フォーム・LINE・メールなどから入ってくる内容を整理しやすくすることが重要です。現場確認では、写真や採寸情報が散在しないよう、案件ごとにクラウド保存する仕組みが有効です。見積作成では、スマートフォンやタブレットから概算見積を作成できるようにすることで、事務所に戻らなくても対応しやすくなります。

このように、単に便利なツールを導入するのではなく、業務の流れを見直し、どこにデジタル化を取り入れるべきかを整理しました。

見積作成・請求業務の効率化

看板製作業では、案件ごとにサイズ、素材、設置場所、施工条件が異なります。そのため、見積作成が属人的になりやすく、過去案件の確認や原価計算に時間がかかることがあります。

今回の支援では、よくある看板メニューの価格表整理、サイズ別・素材別・施工別の概算見積テンプレート作成、スマートフォンやタブレットから入力できる見積フォームの設計などを検討しました。

また、請求業務についても、見積書・請求書発行ソフトの選定、会計ソフトとの連携、インボイス対応、請求漏れ防止のための運用設計を整理しました。

特に重要なのは、最初から複雑なシステムを作ることではありません。まずは「概算見積をすぐに出せる状態」をつくることです。これにより、顧客対応のスピード向上や、事務作業の負担軽減につながる可能性があります。

案件管理・現場写真・デザインデータの一元管理

看板製作では、現場写真、採寸メモ、デザインデータ、見積書、請求書、施工完了写真など、案件ごとに多くの情報が発生します。これらがバラバラに管理されていると、確認漏れや探す時間が発生しやすくなります。

今回の支援では、案件ごとのフォルダ設計、フォルダ命名ルールの作成、スマートフォンから写真をアップロードする運用、顧客共有用フォルダと社内管理用フォルダの分離、デザインデータの誤送信や上書き防止ルールなどを整理しました。

たとえば、案件ごとに「顧客情報」「現場写真」「採寸情報」「デザインデータ」「見積・請求」「進捗」を管理できる状態にしておくことで、情報を探す時間を減らすことができます。

また、施工完了写真は営業実績としても活用できます。これまで記録として保存していた写真を、ホームページやSNS、営業資料に再利用できる形で整理することで、情報管理と販促の両面に役立てることができます。

情報漏洩対策とクラウド利用時の安全管理

クラウドサービスを活用する場合、業務効率化とあわせて情報管理のルールづくりも欠かせません。

看板製作では、顧客情報、店舗写真、看板デザイン、ロゴデータ、住所、未公開デザインなどを扱います。これらを安全に管理するため、アクセス権限の設定、顧客共有フォルダの公開範囲確認、パスワード管理、退職者や外注先への共有解除ルール、不要データの整理などを確認しました。

また、生成AIを活用する際には、顧客情報や機密データをそのまま入力しないことが重要です。AIを便利に使うためには、あらかじめ「入力してよい情報」「入力してはいけない情報」を整理しておく必要があります。

今回の支援では、AI利用ルールの作成も含め、安心してデジタルツールを使うための基本的な管理体制づくりを重視しました。

生成AIを活用した事務・営業・提案業務の効率化

生成AIは、看板製作業においてもさまざまな場面で活用できます。

たとえば、問い合わせ返信、見積提出メール、納期調整文、素材説明、施工条件の説明、注意事項の文章化、看板提案書のたたき台作成、施工事例の紹介文、SNS投稿文、ホームページ掲載文、FAQ作成、社内マニュアル作成などです。

代表者が毎回ゼロから文章を考えるのではなく、AIを使って下書きを作成し、それを人が確認・修正することで、文章作成にかかる負担を軽減できます。

特に看板業では、施工写真やビフォーアフターの記録が営業資産になります。生成AIを活用して、施工実績を紹介文に変換したり、ホームページ掲載用の文章を整えたりすることで、日々の業務で蓄積された情報を営業コンテンツとして再活用しやすくなります。

デジタルマーケティングによる売上回復支援

業務効率化だけでなく、売上回復に向けた情報発信の整理も行いました。

看板製作業では、施工前後の写真、対応可能な看板の種類、対応エリア、概算費用の目安、納期の目安、デザインから施工まで対応できること、店舗・会社・工場・施設などの実績が、問い合わせや受注判断に直結します。

そのため、ホームページ、SNS、Googleビジネスプロフィールなどを確認し、どの情報を見える化すべきかを整理しました。

また、「地域名+看板製作」「店舗看板」「工事看板」「外壁サイン」などの検索対策、施工事例ページの作成方針、問い合わせにつながる導線設計、Googleビジネスプロフィールへの施工写真投稿、既存顧客への再提案メール、法人向け営業資料の作成なども検討しました。

重要なのは、特別な広告施策を最初から大きく始めることではありません。まずは、これまでの施工実績を整理し、顧客が安心して問い合わせできる状態をつくることです。

補助金活用の可能性整理

DXツールやAIツールの導入には、一定の費用が発生します。そのため、今回の支援では、補助金活用の可能性についても整理しました。

2026年度は「デジタル化・AI導入補助金2026」として、中小企業・小規模事業者等がITツールを導入する際の費用の一部を補助する制度が案内されています。

ただし、補助金は「使えるから導入する」のではなく、自社の課題や業務改善の目的に合っているかを確認することが大切です。今回の支援でも、導入したいツールが補助対象になり得るか、会計・請求・顧客管理・案件管理・AI活用ツールのどこに費用対効果があるかを整理しました。

今回の支援で重視したこと

今回の専門家派遣支援で重視したのは、現場に合った実行可能な改善です。

DXやAI活用というと、大規模なシステム導入や高度な自動化をイメージしがちです。しかし、小規模事業者にとって本当に必要なのは、日々の業務で無理なく使える仕組みです。

見積を早く出せるようにする。
写真やデザインデータを探す時間を減らす。
請求漏れを防ぐ。
問い合わせ返信の負担を軽くする。
施工実績を営業に活用する。
ホームページやSNSで情報を伝わりやすくする。

こうした一つひとつの改善が、結果として代表者の負担軽減や売上回復の土台づくりにつながります。

まとめ

日本AIイノベーションセンターでは、今後も中小企業・小規模事業者の実情に合わせたAI活用・DX支援を行ってまいります。

今回の看板製作業における支援では、業務フローの可視化、見積・請求業務の効率化、案件情報の一元管理、クラウド利用時の安全管理、生成AIによる文章作成支援、デジタルマーケティングによる情報発信の整理を行いました。

AIやDXは、導入すること自体が目的ではありません。大切なのは、現場の負担を減らし、本来注力すべき仕事に時間を戻すことです。

今後も当法人では、地域事業者が無理なくデジタル技術を活用し、持続的に成長できるよう、実践的な支援を続けてまいります。